たばこ葉なしでも、ニコチン以外の有害物質に有意差なし
31人の吸い方を機械で再現し、たばこ葉入りとたばこ葉なしを比べる

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「ニコチン0%、タール0%、たばこ0%」。たばこ葉を使用しないシーシャフレーバーには、健康を意識する人向け、たばこの害なしに同じ煙を楽しめる、といった宣伝があった。しかし、シーシャの煙はフレーバーだけから生まれるわけではない。火のついた炭でフレーバーを熱し、炭の燃焼物も一緒に吸い込む。たばこ葉を外せばニコチンはなくなるとしても、一酸化炭素などまで減るとは限らない。
そこで研究チームは、普段シーシャを利用する人が、たばこ葉使用フレーバーと、同じ香りのたばこ葉不使用フレーバーを吸ったときの動きを記録した。その一人ひとりの吸い方を機械で再現し、煙に含まれる一酸化炭素、一酸化窒素、発がん性のある多環芳香族炭化水素、揮発性アルデヒド、タール、ニコチンを比べた。問いは、たばこ葉なしに替えれば、実際に煙の有害物質が減るのか、という点である。
研究概要
- 問い
- たばこ葉不使用フレーバーでシーシャ煙の有害物質は減るか
- 対象
- 18〜50歳の利用者31人分の再現可能な吸引記録
- 比較
- 好みのたばこ葉使用フレーバーと香りを合わせたSoex製たばこ葉不使用フレーバー
- 測定
- 一酸化炭素、一酸化窒素、タール、ニコチン、発がん性PAH、揮発性アルデヒド
たばこ葉以外にも、有害物質の発生源がある
著者らが問題にしたのは、製品の表示と、シーシャで煙ができる仕組みのずれである。シーシャでは、ボウルに置いた甘味と香りのあるフレーバーを炭で熱する。吸うと、炭で熱せられた空気と炭の燃焼物がフレーバーを通り、蒸留や熱分解で生じた煙が水をくぐってホースへ届く。水を通るものの、従来の研究では煙から、一酸化炭素、ニコチン、肺疾患に関わる揮発性アルデヒド、発がん性のある多環芳香族炭化水素(PAH)などが検出されていた。利用後には血中の一酸化炭素とニコチンが上がり、PAHなどの代謝物も尿から測られている。
たばこ葉不使用フレーバーなら、もともと含まれないニコチンへの曝露は避けられると予想できる。一方、炭はシーシャ煙の一酸化炭素とPAHの主な発生源と考えられていた。さらに、たばこ葉を使用しているかどうかにかかわらず製品に含まれる糖は、加熱によって揮発性アルデヒドを生じうる。先行研究でも、Soexのたばこ葉不使用フレーバーはニコチン曝露を生じなかったが、一酸化炭素への曝露はたばこ葉使用フレーバーと同程度だった。著者らはこの仕組みから、たばこ葉なしでも、一酸化炭素、一酸化窒素、PAH、揮発性アルデヒドは煙に残ると予想した。
同じ人が2製品を吸い、その動きを機械に再演させた
臨床実験には、少なくとも6か月、月2〜5回シーシャを利用してきた健康な33人が参加した。年齢は18〜50歳で、平均は20.2歳だった。各参加者は48時間以上あけて2回、管理された環境でシーシャを自由に吸った。一方は本人が選んだメーカー・香りのたばこ葉使用フレーバー10g、もう一方は香りを合わせたSoex製のたばこ葉不使用フレーバー10gである。どちらを使う回かを参加者にも実験担当者にも知らせない二重盲検で、最低45分の時間を設けた。
ホースに付けた測定装置が、一吸いごとの流速と量、間隔を記録した。平均の吸引回数は、たばこ葉入り66.3回、たばこ葉なし71.2回、総吸引量はそれぞれ57.0Lと55.7Lで、吸い方の指標に統計上の差はなかった。技術上再現できなかった2人を除き、31人×2条件の計62記録を、デジタル制御のシーシャ喫煙機で一度ずつ再現した。使ったのは臨床実験と同じ製品ロット、同じ革製ホース、同じThree Kings製クイックライトチャコールである。人を有害物質の測定のために追加で吸わせるのではなく、実際に記録した多様な吸い方を分析室で再演する設計だった。
機械から出た煙を4系統に分け、フィルターなどで成分を捕集した。一酸化窒素は化学発光分析、一酸化炭素は電気化学センサー、ニコチンとPAHは質量分析を組み合わせたガスクロマトグラフィーなどで測った。タールは、フィルター上の粒子状物質から水とニコチンを差し引いた量である。揮発性アルデヒドは粒子を除いた気相だけを分析した。各成分について平均と95%信頼区間を求め、同じ参加者に由来する二条件の差を対応のある統計検定で調べた。
違いが出たのはニコチンだけだった
結果は明瞭だった。たばこ葉使用フレーバーの煙では、1回の使用当たりニコチンが平均1.04mgだったのに対し、たばこ葉不使用フレーバーでは0.01mg未満で、測定可能なニコチンはなかった。この差には統計上の裏付けがある。ところが、ほかの測定対象では、二製品の間に統計上意味のある差がなかった。
一酸化炭素は、たばこ葉入りが平均155mg、たばこ葉なしが159mgだった。タールは464mgと513mg、粒子状物質全体は770mgと855mgで、いずれもたばこ葉なし側で消えていない。発がん性PAHも両方から検出され、例えばベンゾ[a]ピレンは51.8ngと66.1ngだった。揮発性アルデヒドでは、ホルムアルデヒドが58.7μgと117.6μg、アセトアルデヒドが383μgと566μgだった。数値の大小はあるが、ばらつきを考慮すると統計上の差とは判定されていない。これは二製品が完全に同じだと証明したのではなく、この31組の比較でニコチン以外の差を確認できなかった、という結果である。
論文は参考として紙巻きたばこ1本の既報値も表に載せたが、吸い方や使用単位が異なる。例えば一酸化炭素の参考値は1本当たり12.0mgである一方、シーシャ側は各参加者の1回の使用全体である。著者ら自身も、一般に紙巻きたばこ利用者が一日に吸う本数は、シーシャ利用者の一日の使用回数より一桁多いと注意している。したがって、単純に「何本分」と換算するための比較ではない。
炭と糖が残るかぎり、煙の問題も残りうる
著者らは、ニコチン以外が減らなかった結果を、熱源と材料から説明している。一酸化炭素とPAHでは炭が主な発生源であることが先行研究で示されていた。揮発性アルデヒドに差がなかったのは、炭に加え、両製品に含まれる甘味料が加熱で変化したためかもしれない。もし炭と甘味料が主な発生源なら、炭で熱する甘いシーシャ用製品は、たばこ葉の有無にかかわらず、これらを含む煙を生じると予想される。ただし、この研究は発生源を個別に切り分けた実験ではなく、この説明は結果と先行知見を結びつけた考察である。
研究が直接測ったのは機械で再現した煙の成分量であり、病気の発生率ではない。それでも著者らは、依存を生むニコチンへの曝露はたばこ葉不使用フレーバーで避けられる一方、がん、心血管疾患、肺疾患のリスクに関係する測定対象がほぼ同量だったことから、たばこ葉なしの煙がたばこ葉入りより病気のリスクを小さくすると考える根拠はない、と結論づけた。少なくとも「たばこの有害な影響なし」という宣伝は、測定結果と両立しない。
「たばこ葉なし」は「煙の有害物質なし」ではない
この比較で、たばこ葉不使用フレーバーの明確な違いはニコチンが測定されなかったことだった。一方、一酸化炭素、タール、PAH、揮発性アルデヒドなどは両製品の煙に相当量含まれ、統計上の差は見つからなかった。製品名や原料表示だけで煙全体の性質を判断できないことを、31人分の実際の吸い方を再現したデータが示している。
ただし、調べたたばこ葉不使用フレーバーはSoexという1メーカーの製品に限られる。著者らは他メーカー製品にも当てはまる可能性を述べるが、この研究だけで確定はできない。また、強力な発がん性物質であるたばこ特異的ニトロソアミンは測定しておらず、参加者は時々利用する人たちだった。より経験の多い利用者は吸引回数や量が異なり、煙の成分量が今回より多くなる可能性もある。製品間の差を広く判断するには、別メーカーの製品や別の吸い方、未測定成分を含む検証が必要である。
原典の要点
- たばこ葉不使用フレーバーではニコチンが測定されなかったが、ほかの測定対象に統計上の差はなかった。
- 一酸化炭素は1回当たり平均155mg対159mg、タールは464mg対513mgだった。
- 炭の燃焼物と、加熱された甘味料が、たばこ葉なしでも有害物質が生じる理由として考察された。
読むうえでの注意
- 調べたたばこ葉不使用フレーバーはSoexという1メーカーの製品に限られ、病気の発生率ではなく機械で再現した煙の成分量を比べた研究である。
- たばこ特異的ニトロソアミンは測定せず、参加者は時々シーシャを利用する人に限られた。