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Curiosities2026.08.0810分で読めます

たばこ葉不使用のシーシャフレーバー、違いは「ニコチン量」だけ

――ノンニコチンでも「タール」は同程度に検出

たばこ葉不使用のシーシャフレーバー、違いは「ニコチン量」だけ — 記事キービジュアル

シーシャのフレーバーは基本的にたばこ葉を使用しているのですが、これを使わないシーシャがあります。ボウルに詰めるのは、サトウキビから作ったフレーバーで、サトウキビの繊維に糖蜜と香料を含ませています。たばこ葉不使用と聞くと、害が少なそうだと思えるし、実際、フレーバーメーカーはそれをマーケティングに利用しているわけです。しかし、「なさそう」と「ない」の間には永遠に埋まることのない溝が存在します。今回はその溝の深さを測った論文をご紹介します。シーシャ屋としては、メーカーと共にたばこ葉不使用フレーバーを讃嘆した方が良いのかもしれませんが、それでは寝覚めが悪いので。全部、全部出す。

「たばこ葉不使用」のシーシャフレーバーとは

シーシャの煙の元である「フレーバー」は、たばこの葉そのものではありません。刻んだたばこ葉に、糖蜜とグリセリンと香料を染み込ませたものです。論文の言い方を借りると、加えられた糖蜜によって、調製物の大部分は糖でできている。たばこ葉は、糖蜜・グリセリン・香料を染み込ませるスポンジにあたります。

たばこ葉不使用のフレーバーは、そのスポンジを代替品に替えたものです。今回使われたのはインドのシーシャフレーバーブランド「Soex」。論文の紹介では、サトウキビから作られた水たばこ用の調製物で、「健康志向の人向け」を掲げて売られています。メーカーと販売店の説明まで見にいくと、使っているのはバガスです。バガスとは、サトウキビから砂糖を搾ったあとに残る繊維のこと。そこへ同じように糖蜜と香料を含ませます。葉の多孔質と保熱性をまねた繊維、という説明のしかたをしています。

パッケージのほうは、はっきりしています。この種のフレーバーには「0% nicotine, 0% tar, and 0% tobacco」といった表示がよく付く、と論文は書いています。今回使われたSoexの売り文句も引かれています——「たばこの有害な影響なしに、ほかのシーシャと同じ風味の煙」。

煙は同じ、害はない。袋は、その二つを同時に名乗っています。

人が吸う→機械が吸う

集まったのは33人。18歳から50歳で募り、平均年齢は20.2歳でした。6か月以上にわたって、月に2回から5回はシーシャを吸っている人たちです。

一人が2回のセッションを受けます。あいだは48時間以上あけます。ボウルに詰めるのは、どちらも10g。片方が自分の好みのたばこ葉使用フレーバー、もう片方が同じ味のたばこ葉不使用フレーバーです。そして二重盲検。味を揃えたうえで、吸う本人にも、渡す側にも、どちらが入っているかは伏せてあります。

吸い方は指定せず、最低45分の自由喫煙です。そのあいだ、いつ・どれくらい吸い込んだかが記録されます。パフトポグラフィーといって、1回の吸い込みの長さ・量・間隔を並べた記録です。

ここからが、この研究の骨組みにあたります。人の口から出ていった煙は、もう回収できません。そこで記録した吸い方をデジタル制御の喫煙マシンに再現させ、そちらが吐き出す煙を集めて成分を測る。33人のうち2人ぶんは技術的な制約で再現できず、解析は31人ぶんで行われました。ここで測っているのは、人が体に取り込んだ量ではありません。人の吸い方をなぞった機械が、外へ出した煙の量です。

155と159、464と513

測ったのは6項目。一酸化炭素、一酸化窒素、揮発性アルデヒド、ニコチン、タール、多環芳香族炭化水素(PAH)です。以下の±は、この論文が採用している95%信頼区間——真の値がこのあたりに収まるだろう、と見積もった幅を指します。

一酸化炭素は、たばこ葉入り155±49mgに対して、たばこ葉不使用159±42mg。タールは464±159mgと513±115mg。一酸化窒素は437±207μgと386±116μg。PAHの代表格で、発がん物質として知られるベンゾ[a]ピレンは51.8±12.9ngと66.1±17.8ng。ここまで、統計的な差は一つもついていません。

差がついたのは、ニコチンだけでした。たばこ葉入り1.04±0.30mgに対して、たばこ葉不使用は0.01mg未満(p<0.001)。

アルデヒド類については、数字だけ見るとたばこ葉不使用のほうが高く出ています。ホルムアルデヒドは58.7μgと117.6μg。アセトアルデヒドは383μgと566μg。プロピオンアルデヒドは51.7μgと98.4μg。1.5倍から2倍ほどです。ただし、見積もりの幅が広い。ホルムアルデヒドの±は78.7で、平均値117.6の3分の2ほどあります。統計的な差はついておらず、「たばこ葉不使用のほうが多い」とは、この論文からは読み取れません。

タールという語は、たばこのパッケージでおなじみです。ただ、この論文が使っている定義はもう少し狭い。「ニコチンを除いた乾燥粒子相物質」——1回のセッションでフィルターに集めた粒子の総量から、水分とニコチンのぶんを差し引いた残りを指します。特定の物質の名前ではなく、引き算の結果につける名前です。

煙は、どこから来ているのか

では、なぜ変わらなかったのか。論文は、その理由にあたることも書いています。

一つは炭です。炭が、シーシャのもたらす一酸化炭素とPAHの主な出どころである——先行研究を引いて、そう述べています。もう一つは糖。加えられた糖蜜によってボウルの中身の大部分は糖でできていて、その糖が、シーシャを吸うときの温度帯で揮発性アルデヒドを作ることが示されている、と。そのうえで論文は、二つをまとめて置き直します。炭と甘味料が一酸化炭素・PAH・アルデヒド類の主な出どころだとすれば、炭で熱する甘い調製物の煙には、中身が何であれこれらが含まれると考えられる、と。

並べ直すと、こうなります。煙のほとんどは、炭と、染み込ませた糖から。ではたばこの葉は何を出していたのかというと、この研究が測った範囲では、ニコチンです。

スポンジをサトウキビの繊維に替えても、上に載る炭は同じ、含ませる糖蜜も同じ。動いた数字が1つだけだったのは、そう考えると筋が通っています。メーカーが「葉の多孔質と保熱性をまねた」と説明していたのも、同じ温度で同じように煙を出すことを目指した結果、ということになります。よく似た煙が出るように作られたものが、よく似た煙を出した。

「差がない」は「同じ」ではない

統計的な差がつかなかったことは、二つが同じであることの証明ではありません。31人が製品ごとに1回ずつ吸っただけの比較で、小さな差は、あってもこの人数では見えない。

論文の結論も、そこは正確です。たばこ葉不使用のフレーバーを使ってもニコチン曝露のリスクは生じないが、その煙を吸い込むことが、たばこ葉入りフレーバーの煙より小さい疾病リスクをもたらすと信じる理由はない——「より小さいと信じる理由はない」であって、「より大きい」でも「等しい」でもありません。

論文は、自分で限界も挙げています。そのうちの一つは無視できません。調べたたばこ葉不使用のフレーバーは、Soexの1つだけだ、ということです。著者自身は「ほかのブランドにも当てはまる可能性が高い」と付け加えていますが、確かめられてはいません。

そこについては、あとの研究が少し助けになります。2022年のTobacco Control誌の論文が、たばこ葉入りの製品と、たばこ葉を使わない「ハーブ系」の製品の香料成分を比べ、ハーブ系の香料濃度の中央値は0.38mg/g、たばこ葉入りは0.28mg/gと、同程度だったと報告しました。同じ論文は先行研究をまとめて、一酸化炭素・PAH・アルデヒド類について、ハーブ系の水たばこ製品はたばこ葉入りと同程度の量を含んでいる、ニコチンを除いて、とも書いています。10年後、別のやり方で製品を調べた研究も、先行研究をまとめたうえで同じところに行き着いています。

嘘はついていない。でも、無害でもない

当店にも、たばこ葉を使わないフレーバーがあります。メニュー表で「ノンニコチン」と呼んでいるものです。ニコチンは要らない、という方に出します。たばこそのものを避けたい方、ニコチンの立ち上がりが苦手な方、翌朝が早い方。理由はいろいろで、こちらから尋ねることはしません。

出すときに「体にやさしいですよ」とは言いません。聞かれれば、ニコチンは入っていないことと、煙のほうは変わらないと考えられていることを、両方お伝えします。もぐりのシーシャ屋でよく聞く「ノンニコシーシャは水蒸気と一緒だから無害」は嘘ということです。

最後に豆知識。タールは、炭で熱されて煙になって初めてできます。フレーバーの袋の中には無い。たばこ葉入りの製品を袋のまま測っても、タールは0%です。「0% tar」は、その意味で正しい表示です。

袋に書いてある0%は、火をつける前の話です。0%と書ける状態は、炭を載せた時点で終わります。「シーシャはタール0%」は嘘ではないけれど、嘘みたいなもの…ってコト!?

S2 reads it this way

S2はこう読む

  • 同じ人が、同じフレーバーで、たばこ葉入りとたばこ葉不使用を1回ずつ。その吸い方を機械で再現して煙を比べると、有意に違ったのはニコチンだけでした。一酸化炭素は155mgと159mg、タールは464mgと513mgです。
  • 論文自身が、理由にあたることを書いています。一酸化炭素・PAH・アルデヒド類の主な出どころは、炭と、製品に含ませた甘味料のほうである、と。たばこの葉が出していたもののうち、この研究が測った範囲で差がついたのはニコチンでした。ただし葉に由来する発がん物質であるたばこ特異的ニトロソアミンは、この研究では測られていません。
  • 数字が動いて見えるのに、有意差はつかない。アルデヒド類は、その状態がどう見えるかの見本です。見積もりの幅を見ずに平均だけ並べると、逆の結論が書けてしまいます。
  • タールは、煙から集めた粒子から水分とニコチンを引いた残りにつける名前です。炭を載せる前の製品にタールは入っていないので、「タール0%」という表示は、たばこ葉入りの製品についても成り立ちます。
Honest notes

正直な注意書き

  • 測ったのは、記録した吸い方を喫煙マシンで再現して集めた煙の収量です。人が実際に体に取り込んだ量ではありません。人体への吸収率は物質ごとに違うため、この数字をそのまま曝露量として読むことはできません。
  • 本記事に出てくる±は標準偏差ではなく、原典が採用している95%信頼区間です。31人が製品ごとに1回ずつ吸った比較なので、小さな差は検出できない可能性があります。
  • 本記事のタイトルの「違いは「ニコチン量」だけ」は、この研究が測った6項目——一酸化炭素・一酸化窒素・揮発性アルデヒド・ニコチン・タール・多環芳香族炭化水素——のうち、統計的に有意な差がついたのがニコチンだけだった、という意味です。副題の「「タール」は同程度に検出」も、464mgと513mgで有意差が確認されなかったという意味であり、両者が等しいと確かめられたわけではありません。測っていない成分——たとえばたばこ特異的ニトロソアミン——については、差の有無が分かっていません。
  • 揮発性アルデヒド類は、数値上はたばこ葉不使用側が1.5倍から2倍ほど高く出ています(ホルムアルデヒド58.7→117.6μg、アセトアルデヒド383→566μg、プロピオンアルデヒド51.7→98.4μg)。ただし有意差はついておらず、原典も差を認めていません。本記事も「たばこ葉不使用のほうが有害」とは述べていません。
  • 調べられたたばこ葉不使用のフレーバーは、Soexの1製品だけです。この結果を、市場にあるノンニコチン製品すべてに広げることはできません。原典も限界としてこの点を挙げています。
  • 原典の限界として、ほかに二つ。たばこ特異的ニトロソアミンは測定されていません。また吸い方の記録を提供したのは「ときどき吸う程度」の使用者で、より深く長く吸う人では違う結果になりうる、と原典が述べています。
  • 「0% tar」という表示についての本記事の説明は、タールの定義(ニコチンを除いた乾燥粒子相物質)から導いたものです。原典はラベル表示の適否を測定によって検証しておらず、表示が虚偽であると示した研究ではありません。ただし原典は広告表現のほうについては評価を下しており、「たばこの有害な影響なしに、ほかのシーシャと同じ風味の煙」という宣伝は「よく見ても誤解を招く(at best, misleading)」と述べています。本記事がタール表示の形式的な正しさを説明するのは、この評価を否定するためではありません。
  • 本記事が「無害ではない」と述べる根拠は、たばこ葉不使用側でもタール513mg・一酸化炭素159mgが検出されたという原典の実測です。一方、本文の「もぐりのシーシャ屋」「嘘」といった言い方は書き手のものであって、原典の評価ではありません。原典が評価を下しているのは広告表現に対してで、その語は「よく見ても誤解を招く(at best, misleading)」です。
  • 原典は売り文句の例として、Soexのほかにカナダの「Red Royal」というブランドも挙げています。本記事はSoexのぶんだけを引きました。Red Royalの出典は www.redroyal.ca というURL1本だけで参考文献一覧に無く、現在このブランドの実在を確かめられなかったためです。
  • たばこ葉不使用のフレーバーの中身について、原典が書いているのは、Soexがインド製で、サトウキビから作られた水たばこ用の調製物であること、加えられた糖蜜によって調製物の大部分が糖になっていること、までです。本記事の「バガス=サトウキビから砂糖を搾ったあとに残る繊維を使う」「葉の多孔質と保熱性をまねた繊維」という部分は原典には無く、メーカーおよび販売店の商品説明によるものです。本記事が挙げたグリセリンも、原典の記述にはありません。
  • 2022年のTobacco Control誌の研究について本記事が引いた「ニコチンを除けば同程度」という記述は、その論文が先行研究をまとめた部分です。同論文が自ら測定したのは香料成分とニコチンの濃度で、有害物質そのものを測り直したわけではありません。
  • ニコチンが入っていないこと自体は事実で、依存性という点では違いがあります。本記事はその違いを否定するものではなく、煙に含まれる有害物質の量については差が確認されなかった、という話です。
  • 研究資金は米国公衆衛生局のグラント(R01CA120142、R01DA024876、F31DA028102)で、著者は利益相反が無いと申告しています。
  • 原典の表記は waterpipe および tobacco-free waterpipe product です。本記事では「シーシャ」「たばこ葉不使用フレーバー」と記しました。
  • シーシャは「たばこ」であり、ノンニコチンであっても煙を吸う行為には健康リスクがあります。この記事は医療的な助言ではありません。
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