「シーシャは紙巻きたばこより害が大きいと思いますか?」
――最も多かった回答は「わからない」

このページの目次
80.9%。米国の成人が、シーシャという道具を「知っている」割合です。裏を返せば、5人に1人は名前も聞いたことがない。その、知っている人たちに、シーシャは紙巻きたばこより害が大きいと思うかを尋ねた調査があります。答えは「少ない」「同じくらい」「より大きい」の三択に、「わからない」を足した四つ。いちばん多かったのは、「わからない」でした。そして調査はもう一歩進んで、その答え方と、実際に吸っているかどうかの関係まで見ています。
割合の分母は、全員ではない
調査は2014年6〜11月と2015年8〜9月の2回。前者が5,717人、後者が6,051人で、合わせて11,768人の米国成人が答えています。調査を配信した相手のうち最後まで答えた割合は74.1%と76.0%。住所をもとに無作為抽出したオンラインパネルなので、言いたいことのある人だけが集まってくる自発的なアンケートとは性質が違います。ふつうの成人に、無作為に聞いた結果として読める数字です。
尋ねられた問いは、「シーシャを吸うのは、紙巻きたばこを吸うより害が少ないか、同じくらいか、より大きいか」の三択。ただし「わからない」も選べました。この答えを論文が集計しているのは、回答者全員ではありません。これとは別に「シーシャを知っているか」を尋ねており、知っていると答えた人だけを対象に数えています。シーシャ自体の認知率は80.9%、回答者のおよそ8割です。残りの2割は、紙巻きと比べる以前に、比べる対象そのものを知らなかった。
つまりこのあと出てくる割合は、11,768人ではなく、その8割の中での話になります。ただ、その8割が実際に何人だったのかは、論文に書かれていません。以降の数字は、人数の示されない分母の上に乗っている、ということになります。
経験は広く、常用は細い
実際に吸っている人はどれくらいいるのか。生涯に一度でもシーシャを吸ったことのある米国成人は15.8%。一方、直近30日に吸った人は1.5%です。経験者の10人に9人は、いま吸っていない計算になります。
年齢で割ると差は鮮明です。生涯経験は25〜34歳が32.4%で最も高く、18〜24歳が25.0%、35〜44歳で14.7%、65歳以上では5.3%まで落ちる。直近30日も同じ順に、3.8%、3.6%、0.7%、0.2%。若い世代に集中し、しかも経験の広がりに比べて、常用している人の層はごく細い。
性別や民族でも差が出ます。生涯経験は男性18.8%に対して女性13.0%、直近30日は1.7%と1.3%。人種・民族別では、直近30日に吸った割合がヒスパニック系で3.5%と最も高く、生涯経験も18.9%。全体の1.5%と並べると、集団によって「身近にある道具かどうか」がかなり違うことが見て取れます。
世論は、二分していなかった
改めて並べます。「少ない」13.0%(95%信頼区間11.8〜14.3)、「同等か、より大きい」43.1%(41.4〜44.9)、「わからない」43.9%(42.1〜45.7)。「同等か、より大きい」と「わからない」の二つは信頼区間が重なっており、どちらが多いとは言い切れません。世論が二分しているのではない。危ないと考える人と、判断を保留した人が、同じ大きさの塊として並んでいる。
「わからない」を消極的な回答として片づけたくなりますが、選択肢の中でそれだけが、自分の無知を申告するものです。残る三つはいずれも判断を下している。危ないと知って避けるのでもなく、安全だと信じて選ぶのでもなく、判断そのものを保留したままの人が、いちばん大きな塊になる。ただし、実際に吸ったことのある人にかぎると「わからない」は25.3%まで下がり、代わりに「少ない」が27.4%まで上がります。触れた人は、良くも悪くも判断を済ませている。
ここで一つ、言葉を分けておきます。この調査が測ったのは「害」ではなく「害の認識」です。煙に何が入っているかを測ったのでも、病気になる確率を追いかけたのでもない。人がそれをどう思っているか、だけを聞いている。だから「43.9%がわからないと答えた」は、シーシャの危険度について何も語りません。語っているのは、43.9%ぶんの空白がこの社会にある、ということのほうです。
甘く見るのは、若くて、学があって、紙巻きを吸わない人
研究チームは「少ない」派の内訳も調べています。年齢・学歴・喫煙状況・シーシャの使用経験などをまとめて統計的に調整したうえで、どんな人が「害は少ない」と答えやすいかを比較しました。
結果は、狙い撃ちしたように一貫しています。18〜24歳は65歳以上の2.7倍(95%信頼区間1.6〜4.5)、25〜34歳は1.8倍(1.2〜2.8)。学士号以上の人は最終学歴が最も低い層——高卒に届かない層です——の2.3倍(1.2〜4.4)。紙巻きを生涯に100本も吸っていない人——論文が「非喫煙者」と呼ぶのはこの定義です——は、いま吸っている人の2.1倍(1.4〜3.1)。シーシャを吸ったことのある人は、ない人の2.8倍(2.1〜3.6)。若く、学があり、自分では紙巻きを吸わない人ほど、シーシャには甘い。
なぜ甘く見るのか。論文は先行研究を引いて、四つの理由を挙げています。香りがよいこと。煙が水を通ること。含まれる化学物質が少ないと思われていること。そして、社会的に受け入れられていること。
そして、軽く見る人ほど、実際に吸っていた
「害は少ない」と答えた人は、「同等か、より大きい」と答えた人に比べて、直近30日にシーシャを吸っているオッズが5.18倍でした。認識と行動は、たしかに重なっている。
ただし信頼区間は2.70〜9.91と広く、5.18という数字そのものを握りしめるのは筋が悪い。この数字は年齢や学歴を調整していない粗い比較で、論文も表には載せず本文で一度触れるだけです。いま吸っている人は全体の1.5%しかおらず、推定が大きく揺れます。それでも下限が2.70である以上、関連があること自体は動きません。
むろん相関であって因果ではありません。ある一時点を切り取った横断調査なので、「軽く見ているから吸う」のか「吸っているから軽く見るようになる」のか、向きまでは決められない。おそらく両方向に回っている、というのが率直なところでしょう。
広がった理由は、売る側にもある
考察で著者らが問題にするのは、回答者の誤解だけではありません。若い世代にシーシャが広がった背景として、売る側の事情を三つ挙げています。ひとつは立地。米国では、大学キャンパスのすぐそばに店を構える例が多いこと。ふたつめは、ネットとSNSの広告に触れる機会の多さ。そしてフレーバーで、若い人に刺さる品ぞろえがあること。
甘い香りが入り口になっているのは、うちの店でもそのとおりです。ただ、シーシャ屋が言うことではありますが、たばこ初心者に優しいフレーバーを減らすべきだ、とは考えていません。入り口が甘いことと、中で正確に説明することは、両立します。むしろ入り口が甘いからこそ、中の説明はごまかせない。
もしも、同じ質問を今の日本で聞いたら、と考えます。認知率も、「わからない」の割合も、この調査とは違う形で出るはずです。手元にあるのは、米国の、十年余り前の数字だけ。日本の分は、まだ誰も測っていません。
S2はこう読む
- シーシャを知っている米国成人のうち、紙巻きより「害が少ない」と答えたのは13.0%。最多は「わからない」(43.9%)で、「同等か、より大きい」(43.1%)とほぼ横並びでした。
- 「害は少ない」と答えやすいのは、18〜24歳(65歳以上の2.7倍)・学士号以上(高卒未満の2.3倍)・紙巻きの生涯非喫煙者(現在喫煙者の2.1倍)・シーシャ経験者(未経験者の2.8倍)。若く学歴が高く紙巻きを吸わない人ほど、甘く見ています。
- 害を軽く見ている人は、「同等か、より大きい」と答えた人に比べ、直近30日にシーシャを吸っているオッズが5.18倍。ただし年齢や学歴を調整していない粗い比較で、横断調査のため誤解が先か行動が先かも分かりません。
- 生涯経験は15.8%、直近30日は1.5%。経験は広く、常用は細い。著者は若年層への広がりの背景として、キャンパス近接の出店・SNS広告・フレーバー戦略の三つを挙げています。
正直な注意書き
- 害認識の割合は、シーシャを知っていると答えた人(認知率80.9%・回答者のおよそ8割)だけを対象に集計したものです。米国成人全体に対する割合ではありません。対象となった人の実人数は、論文には記載がありません。
- 2014〜2015年に行われた、米国のオンライン調査パネルによる横断調査です。十年以上前のデータであり、日本の状況や意識にそのまま当てはまるとは限りません。なお害認識の集計表だけ、論文中では「2015年」と記されています。二年分をまとめた値なのか2015年分なのかは、論文の記述からは判別できません。
- 横断研究(ある一時点の調査)のため、因果の向きは特定できません。また5.18倍は年齢や学歴などを調整していない粗い比較(論文でも表に載せず、本文で触れるにとどまる値)で、記事内の他の倍率(2.7倍など)とは性質が違います。いずれも集団の統計的な関連であり、個人の判断や行動を予測するものではありません。
- シーシャを吸っているかどうかも含め、すべて自己申告の回答で、裏付けとなる検証は行われていません。「生涯経験」は1〜2回試しただけでも該当する定義なので、15.8%は常用者の割合ではありません。「直近30日以内の使用」という定義も、他の研究と揃っているとは限りません。
- この記事は調査結果を紹介する読み物です。シーシャが安全という意味では全くありません。シーシャは「たばこ」であり健康リスクがあります。医療的な助言ではありません。