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Aroma & Chemistry2026.08.148分で読めます

シーシャの煙は、吸っているあいだも変わる

――気体側はグリセリン、超微粒子側は糖由来

シーシャの煙は、吸っているあいだも変わる — 記事キービジュアル
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白い煙を見ると、その中身も一つだと思いたくなります。けれど、煙は目に見えない気体と、固体・液体の細かな粒子が混ざったものです。今回の論文は、この二つを別の装置で測り、30分のセッション中に粒子の大きさがどう変わるかまで追いました。先に結論を言うと、気体側で目立ったのはグリセリンとその関連成分。100nm未満の粒子側で多かったのは、糖に由来する分子です。そして、見た目には同じ白い煙でも、粒子は最初の10分と後半で同じではありませんでした。

煙を、時間ごとに測る

この研究の新しさは、煙を一つの袋に集め、最後にまとめて調べたことではありません。シーシャ台から吸い出した主流煙を装置へ送り、気体に含まれる揮発性成分と、粒子の大きさを時間に沿って測ったことです。粒子径は1分ごとの平均なので、1パフずつを切り分けた測定ではありません。それでも、セッション前半と後半の変化は見えます。

条件は、1分に2回、1回4秒、1回あたり860mLを30分。10gの製品を詰め、ココナッツ殻の天然炭を3個使いました。調べたのは、アップルの一般的なたばこ製品、バナナのニコチンフリー・ハーブ製品、ブラックベリーの水洗いしていないダークリーフ製品の3種類です。煙は装置に入る前に241〜325倍、平均で約276倍に薄められています。

白く濃いエアロゾルは、最初の1パフででき、30分のあいだ保たれました。ここだけを見ると、煙は最初のひと口で完成したように見えます。けれど、粒子径の測定は別の話を示しました。

最初の10分は、細かい粒子が多い

セッション開始から最初の10分は、直径4〜100nmの粒子が分布を支配していました。最も数が多い粒子径は80nm付近。その後は、中心が200nm付近へ移ります。論文は、ボウルから出た蒸気が冷えて新しい粒子になり、時間とともに粒子が育っていく、と説明しています。

つまり、白さが30分続いたことと、煙の内側が30分同じだったことは別です。見た目は保たれていても、粒子の大きさは動いている。今回の論文でいちばん面白いのは、グリセリンや糖の名前より、むしろこちらです。シーシャの煙を時間のない静物ではなく、セッション中に変わるものとして捉えたこと。

論文は粒子の個数を、同じ装置で測った基準紙巻きたばことも比べています。100nm未満の粒子は、シーシャ1パフの平均で紙巻き2.4本分。開始直後は100nm未満で5本分、20nm未満で25本分と計算されました。ただし、これは粒子の個数の換算です。害の大きさが2.4倍、5倍、25倍という意味ではありません。

気体側は、グリセリン関連の信号が支配する

気体側の質量スペクトルでは、グリセリンに関係するピークが圧倒的でした。グリセリンそのもののイオンも、3種類すべての主流煙から検出されています。ほかに、アセトアルデヒド、アクロレイン、グリコールアルデヒドなどへ帰属されるイオンが並びます。論文は、気体側をグリセリンとその熱分解生成物が支配している、と結論づけました。

ただし、質量分析では、ボウルの中でできた分子と、測定装置の中でグリセリンのイオンが壊れてできた断片が、同じ場所に現れる場合があります。グリセリンのイオンは装置内で水を失うと、アセトアルデヒドやアクロレインなどに対応するのと同じ重さのイオンを生じうるからです。この記事で「グリセリン関連」と書くのは、この留保を残すためです。

香料についても、ゼロだったわけではありません。表1には、シーシャ製品で香料として使われるヘキシルアセテートの断片や、ベンジルアセテートなどから生じうるイオンの帰属があります。ただし、ほかの成分と重なる断片であり、香料化合物を一つずつ同定して量を測った研究ではありません。気体側でグリセリンが大きいという結果は、香りの強さや中身までグリセリンで決まるという話ではないのです。

100nm未満の粒子側では、糖由来の分子が多い

粒子側の化学組成は、100nm未満の粒子を集めてから加熱し、出てきた成分を測っています。ここで多かった正イオンは、糖や多糖類に由来するものでした。一般的なたばこ製品では、レボグルコサンとみられるピークが大きく出ています。グリセリンと単糖が結びついた分子も、シーシャ煙のエアロゾルを構成する主要な成分の一つでした。

一方で、グリセリンそのものが粒子側に無かったわけではありません。検出される場合はありましたが、気体側から来る大きな背景信号のため判定が曖昧になり、論文の図からは除外されています。気体と粒子は、成分ごとにきれいに二分された箱ではありません。温度や希釈によって、同じ成分が気体になったり、凝結して粒子側へ移ったりします。

だから、「白く見えているものは糖だ」とまでは言えません。この研究が化学組成を詳しく調べたのは100nm未満の粒子で、目に見えるエアロゾル全体を成分別に量ったわけではないからです。言えるのは、調べた超微粒子の範囲では糖由来の分子が多かった、というところまで。白さと糖を直結させると、論文の測定範囲を越えてしまいます。

炭と水も、煙の一部をつくる

煙の出どころは、ボウルの中身だけではありません。炭だけの対照実験でも、さまざまな大きさの粒子がセッション中を通して出続けました。終盤には、70nm未満と100nm未満の粒子濃度が、一般的なたばこ製品を入れた条件と同じ程度になります。一酸化炭素が主に炭から出ていたことも、炭を載せない実験で確かめられています。

水も、単純なフィルターではありませんでした。水を入れない条件では、超微粒子の濃度が全体に低く、とくに最初の10分の20nm未満が少なくなりました。著者らは、水蒸気による冷却が新しい粒子の形成を助けた可能性を挙げています。煙が水をくぐるから粒子が取り除かれる、という素朴な図とは反対向きです。

気体側と100nm未満の粒子側を分けて見ると、目立つ有機成分も同じではありません。しかも煙は、グリセリンと糖だけでできているわけでもない。炭由来の一酸化炭素や粒子があり、水は粒子形成の条件にもなっています。

見た目が同じでも、中身は動いている

ヘッド内の温度は、30分のあいだ265〜318℃で推移しました。吸うたびに約50℃下がり、パフの合間に戻ります。ただし、使った炭は3個で固定され、火加減を変えた比較はありません。低い温度なら超微粒子やカルボニル類が減る、とこの論文から結論づけることはできません。

シーシャを扱っている人間として、この論文から持ち帰れるのは、煙の量を見ただけで中身まで同じだと思わないことです。最初の1パフから白さは出る。それでも、最初の10分に多かった細かな粒子は、後半になると大きい側へ移っていく。気体側と粒子側で、目立つ成分も違います。

煙は、グリセリンと糖を熱すれば出てくる白い完成品ではありません。炭と水、温度と時間が重なり、吸っているあいだにも姿を変え続けるエアロゾルです。見た目は同じでも、その内側は止まっていません。

S2 reads it this way

S2はこう読む

  • 気体側ではグリセリンとその関連成分の信号が支配的でした。100nm未満の粒子側では、糖や多糖類に由来する分子が多く検出されました。これは相ごとの測定結果で、煙の全成分をグリセリンと糖だけに限定する話ではありません。
  • 粒子径はセッション中に変わります。最初の10分は4〜100nmが分布を支配し、最も多い粒子径は80nm付近。その後は200nm付近へ移りました。白さが保たれていても、粒子の大きさは同じではありません。
  • 「白く見える煙は糖」とは結論づけられません。化学組成を詳しく調べたのは100nm未満の粒子で、グリセリンも粒子側で検出される場合がありました。測定範囲を、目に見える煙全体へ広げないことが大切です。
  • 紙巻き2.4本分・5本分・25本分という数字は、粒子の個数を換算したものです。害の倍率ではありません。また炭3個の単一条件で、火加減を変えた比較も行われていません。
Honest notes

正直な注意書き

  • 実験室の喫煙マシンによる測定です。1分2パフ・1パフ4秒・860mL・30分・製品10g・ココナッツ殻の天然炭3個という単一条件で、3種類の製品だけを調べています。人が実際に吸う条件や、他の製品へそのまま一般化はできません。
  • 粒子径は1分ごとの平均で、1パフずつを切り分けた測定ではありません。煙は装置に入る前に241〜325倍(平均276±34倍)に希釈され、輸送中に粒子が蒸発した可能性へ論文自身が触れています。
  • 粒子の化学組成は、100nm未満の粒子を2〜10分間集め、加熱して測る別方式です。粒子径の時間変化と同じ時間分解能ではありません。本記事は、この範囲で糖由来の分子が多かったことを、目に見えるエアロゾル全体の成分とは区別して書いています。
  • グリセリンそのものは粒子側でも検出される場合がありましたが、気体側からの大きな背景信号で判定が曖昧になり、図から除外されています。気体側と粒子側の分かれ方は、測定系の温度と希釈にも左右されます。
  • 原典の表1には、ヘキシルアセテートの断片やベンジル化合物から生じうるイオンも挙がっています。ただし他の成分と同じ重さに重なる断片で、香料化合物を単独で同定・定量したものではありません。香りの成分別内訳はこの研究の対象外です。
  • グリセリン関連のイオンの一部は、ボウル内の熱分解だけでなく、測定装置内でグリセリンのイオンが水を失うことでも生じえます。個々の信号について、生成場所まで分けた測定ではありません。
  • 紙巻きたばことの比較は、100nm未満など一定の大きさで区切った粒子の個数を、紙巻き1本7パフとして換算したものです。シーシャは1パフ860mL、基準紙巻きは1パフ36mLで、用量反応も異なりうるため、健康影響の倍率とは読めません。
  • 著者らは、測定した化合物の相対的な多寡を示した研究であり、特定の有害成分の摂取量を定量したものではないと明記しています。火加減を変えた比較もないため、低温なら超微粒子やカルボニル類が減るとは本研究から言えません。
  • この記事は煙の成り立ちを読むためのものです。シーシャは「たばこ」であり、健康リスクがあります。医療的な助言ではありません。
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