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アップルとリコリスが似ている? 13製品から見つかった114の香り成分 — 記事キービジュアル
香り・化学2026.07.188分で読めます

アップルとリコリスが似ている? 13製品から見つかった114の香り成分

シーシャフレーバーを比べ、強く加熱したときに現れる成分まで追った研究

アップル、グレープ、ピーチ、シナモン。名前は香りを思い起こさせても、中身は見えない。シーシャはたばこ葉を炭で間接的に熱し、煙を水に通して吸う。甘い香りの中身は、加熱後も同じなのだろうか。

研究チームは市販のシーシャフレーバーから、空気中へ出やすい成分を見分けた。さらに一部を炭とともに190℃まで加熱し、香りをつくる成分と、新たに現れる成分を分けて考えた。

研究の概要

問い
市販シーシャフレーバーの香りは何ででき、強い加熱でどう変わるか
対象
UAE産Al Fakherとエジプト産Dandashの計13製品、比較用紙巻きたばこ
比較
通常の香りの採取と、5製品を炭とともに190℃で加熱した条件
主な結果
114成分を確認し、190℃では別の81成分が新たに検出された

フレーバーの名前の奥にあるもの

出発点は、「シーシャフレーバーには何が入っているのか」だ。香りは人気を支える一方、紙巻きたばこより安全だという誤解もある。従来研究は吸入時の煙やシーシャ全体の化学成分が中心で、市販フレーバー間の比較は限られていた、と著者らは説明する。

対象は、UAE産Al Fakherのストロベリー、シナモン、マンゴー、ピーチ、リコリス、エジプト産Dandashのグレープ、グアバ、ウォーターメロン、ノンアロマ、そして両社からそれぞれアップルとメロン。計13製品だ。紙巻きたばこと比較し、うち5製品は炭とともに190℃で熱して、加熱前に近い香りから何が変わるかを調べた。

どのように香りを捕まえたのか

実験では各試料0.5gを小瓶に入れ、50℃で30分保った。瓶の中の空気へ出た成分を、表面に吸着材を塗った細い繊維で集める。集めた成分を時間差で分け、分子の特徴を読んだ。13製品と紙巻きたばこは各3回測り、既知データと90%を超えて一致するものを候補とし、用意できるものは、正体が確認済みの実物見本(標準品)とも照合した。

高温条件では、シーシャ0.5gと熱した炭0.5gを190℃で10分置き、水2mLを加えて同じ方法で集めた。炭だけでも測り、フレーバーと炭を混ぜた試料に現れた成分と見比べた。全試料に物差し役の成分を同量加え、装置に現れた反応の大きさをその物差しと比べて割合をそろえた。商品間の香りは比べられるが、吸い手が実際に取り込む量を直接示す測定ではない。

114成分が描いた、フレーバーごとの香りの地図

まず、試料を約50℃に保ち、普段の状態で小瓶の空気へ出る香りを集めた結果だ。炭とともに190℃で熱する実験とは別である。この実験では、114種類の成分が見つかった。果物らしい香りにも使われる「エステル類」は、多くの製品で最大のグループとなり、平均約39%を占めた。ただし配合は製品ごとに異なり、特定の成分が香りの輪郭を決める例があった。

ピーチフレーバーでは、桃らしい強い香りの成分群(γ-デカラクトンとγ-ウンデカラクトン)が約67%を占め、うちγ-デカラクトンだけで51%だった。シナモンフレーバーでは、香料にも使われるカルボンが48%で、ほかの製品にはなかった。グレープフレーバーでは甘い果実香の一成分(メチルメタントラニレート)が27%で、ほぼこの製品だけに現れた。素材そのものではなく、商品を特徴づける香りの組み合わせを見た結果だ。

意外なのは、アップルフレーバーとリコリスフレーバーだ。どちらも甘い香りのアネトールが大半を占め、Dandashのアップルで58%、Al Fakherのアップルで82%、Al Fakherのリコリスで93%だった。フレーバー名が違っても、分析上は同じ主役を共有することがある。

香りの主役と、注意が必要な成分

よい香りだけを拾った分析ではない。バターやカラメルのようなにおいの2,3-ブタンジオンは、メロンフレーバー、ノンアロマフレーバー、紙巻きたばこで比較的多く検出された。論文では、吸入による呼吸器への害が報告された成分として扱われる。刺激性が報告されたフェノールも、いくつかの製品と紙巻きたばこで少量見つかった。

紙巻きたばこでは、空気中へ出た成分の28%をニコチンが占めた。ノンアロマフレーバーでは、マウスへの吸入で興奮とけいれんが起きるとされるピロリジンが22%だった。動物での発がん性が報告された成分も、ごく少量ながら一部製品から検出された。ただし示されたのは混合物中の相対的な割合だ。検出だけでは、人が吸う量や健康影響の大きさまでは決まらない。

成分の組み合わせで商品を見分ける

114成分を基に、組み合わせが似た試料を近くへ集めると、三つの主要なまとまり(クラスター)に分かれた。クラスター1はAl FakherとDandashのメロン、クラスター2はAl Fakherのストロベリーとピーチ、Dandashのノンアロマ、クラスター3はその他だ。メーカーの違うアップルとメロンがそれぞれ近くなり、メーカーよりフレーバー設計の共通性が表れた。

甘い香りのアネトールは、一成分だけ突出して計算全体を強く引っ張り、ほかの違いを見えにくくしていた。そこでアネトールを外して同じデータを計算し直すと、シナモンはカルボン、ピーチはγ-デカラクトンの多さによって、それぞれ独立してクラスター化された。除外後の分析では、Al FakherとDandashのメロン、Dandashのノンアロマフレーバーが紙巻きたばこの近くに位置した。

190℃で、香りの顔ぶれが変わる

グアバ、ウォーターメロン、ピーチ、マンゴー、メロンの5製品を炭とともに190℃で加熱した。低温ではなかった81種類が新たに検出され、その多くは元の香料ではなく、炭を熱したときに出るタールに由来した可能性が高いと著者らはみている。とくに増えたのがフェノール類だった。

190℃ではフェノール類が平均28%で最大となり、27種類が見つかった。ナフタレンなど、健康影響が報告される成分を含む24種類も確認された。論文は、フェノール類には細胞を傷つける性質があり、ナフタレンとその仲間には発がん性があるとの既報を挙げる。一方、高温の紙巻きたばこは検出成分のほぼ99%がニコチンだった。

実際のシーシャでは煙が水を通るため、代表としてマンゴーを190℃で水ありと水なしに分けて比較した。見つかった成分の種類は変わらなかった。成分量の組み合わせでも、全体の違いの40%を表す最大の傾向では、水の有無で二群に分かれなかった。著者らは、水なしの高温分析も使用時に生じる成分を調べる近似として使えると判断した。

著者の結論と、まだ残る距離

著者らは、これを市販のシーシャフレーバーを比べた最初の包括的な香り成分表と位置づける。強い加熱で刺激性が報告された成分や、炭を熱したときに出るタールの分解物と考えられる成分が現れたため、甘い香りや水を通す仕組みは安全の根拠にならない、と論じた。この研究で比べた製品のなかでは、健康上望ましくない可能性がある成分が4種類見つかったDandashのメロンフレーバーを、著者らは最も懸念の大きい製品と評価した。

ただし、この順位をすべてのメロンフレーバーへ広げたり、病気の危険度へ読み替えたりはできない。測ったのは限られたメーカーの製品から出た成分の種類と相対的な割合だ。毒性の判断には各成分の絶対量が必要だと著者らも明記している。メーカーによる香料変更、唾液や口内の微生物による成分変化、アレルギーや刺激との対応も今後の課題だ。

分かったこと、まだ分からないこと

原典の結論が注意を向けるのは、炭と高温で生じる成分だ。190℃で新たに見つかった81種類の多くは、炭を熱したときに出るタール由来の可能性が高く、刺激性や発がん性が報告された成分も含まれていた。

ただし、114種類や81種類という数だけで、人への危険度は決まらない。この研究が示したのは、成分の種類と相対割合までだ。実際に吸い込む絶対量と、その量による健康影響は別に調べる必要がある。

この記事の要点

  1. 13製品から114種類の空気中へ出やすい成分が見つかり、フレーバーごとに特徴的な組み合わせがあった。
  2. 5製品を炭とともに190℃で加熱すると81種類が新たに現れ、フェノール類などが増えた。

読むうえでの注意

  • 成分の有無と相対的な割合を調べた研究で、人が吸い込む絶対量や病気の危険度を直接測ってはいない。
  • 対象は限られた市販品であり、特定のフレーバーについて得た順位を、同名の全製品へ一般化できない。

公開 2026.07.18 更新 2026.09.02
記事は論文の要約であり医学的な助言ではありません